節税と不動産投資の赤字~こうして高所得者は狙われる
2023年04月28日節税ブログ その106
●節税と不動産投資の赤字~こうして高所得者は狙われる
■高所得者は高負担者
最近、高所得者の方を対象にした「節税セミナー」の広告をよく見かけます。
ひとつひとつのセミナーの詳しい内容はわかりませんが、恐らく、そこで語られることの多くは「不動産投資」の話になるのではないでしょうか。
というわけで、今日のテーマは、何故、不動産投資が節税の切り札として語られるのかーというお話です。
一流企業や大きな病院にお勤めの方で「高所得者」といわれる方の収入は「給与収入」ですが、個人事業者であれば売上から仕入代金や人件費等の「費用」を引いた利益に対して税金がかけられる一方、給与に関してはこの「費用」に該当するものがありません。
そこで、「給与所得控除額」という法律で決められた一定の“引かれもの”だけが認められていて、給与収入のおおよそ2割から3割が額面から引かれます。
たとえば、年間の給与収入が500万円であれば、「給与所得控除額」は144万円で残額の356万円が課税対象となります。しかし、給与収入が850万円を越すとこの控除額は195万円で打ち止めになってしまいます。
給与収入が年間1千万円でも、1千5百万円でも、2千万円でも、引かれる「給与所得控除額」は195万円のままです。
給与収入が2千万円だったら
1千8百万円
が税金の対象ということになってしまうわけです。
注) 実際の税金の計算はここから社会保険料や基礎控除額などが控除されます。
■「損益通算」で給与所得を減らす
この様に給与所得というのは個人が勝手に課税対象金額を減らすことができません。そこで使われる手が
損益通算
という方法です。これは他の所得で出た「赤字」と「給与所得」とを相殺して課税対象金額全体を減らすというやり方です。
ここで使えるのは「事業所得」や「不動産所得」の赤字ということになりますが、給与所得者が使える赤字は一般的には「不動産所得」ということになります。
なぜか?
事業所得というのは、たとえば、飲食業や小売業の儲けのことをいいますが、給与所得者はそういった事業に通常、時間を割くことができません。
その点、不動産所得は「不労所得」といわれるように、一度、入居者が決まってしまえば、後は自動的に毎月決まったお金が振り込まれます。
その上で、不動産事業では「お金が出ていかない費用」である「減価償却費」が計上できるので、不動産所得を「赤字」にすることができる。そうすると、その「赤字」と給与所得とを相殺できて、給与からもっていかれた税金を取り戻すことができますよーというのがよくいわれる節税スキームです。
ただし、これは明らかな間違い、あるいは、大きな誤解をまねく言い方といわざるを得ません。
■現金が出ていく赤字
その点を、これから数字を使って具体的に説明していきたいと思います。
例)給与所得1千万円、不動産所得は2百万円の赤字の場合
相殺後の合計所得は8百万円で、所得税は約120万円になります。給与所得1千万円だけだと所得税は約176万円になりますから、56万円の節税に成功ということになるわけです。
注)計算は所得控除額を一切考慮せずに行っています。
しかし、仮に不動産所得の赤字が、実際に現金が2百万円出ていってしまった結果だとしたらどうでしょうか。
不動産所得の赤字2百万で税金は56万円節約できても、手元に残る現金は
合計所得 税 金 現金残高
800万円-120万円=680万円
一方、所得が給与所得だけであれば課税されるのは、給与の1千万円だけですから
合計所得 税 金 現金残高
1,000万円-176万円=824万円
となって、当然ながら、不動産所得の赤字がない方が、144万円現金が多く残る結果となります。
■減価償却費は現金が出ていかない“魔法の経費”か?
上の説明に対しては
いや、いや、それは実際に現金が出ていった結果、赤字となった場合であって、減価償却費は現金が出ていかない費用だから、税金が減った分、現金は多く残りますよ
という反論が返ってくるでしょう。確かに、200万円の赤字がすべて減価償却費の計上によるものなら、手元に残る現金は
合計所得 800万円 (給与所得1,000万円-不動産所得▲200万円)
税 金 ▲120万円
差 引 680万円
減価償却費 200万円
現金残高 880万円
になります。減価償却費を利益にプラスするのは、償却費は会計上、利益からマイナスされる費用ではあっても、現金は出ていかないからーです。
しかし、不動産所得の元になる土地や建物は当然ながらタダで手に入るわけではありません。ほとんどの場合、銀行から借入れが必要です。そして、借りたお金はこれまた、当然、毎月返していかなければなりません。
仮に、2,400万円の中古物件を全額銀行借入で購入したとします。中古物件の耐用年数を6年と見積った場合の減価償却費は年間400万円、家賃収入は利回り8%で約200万円、返済期間は耐用年数と同じ6年で年間返済額は400万円とした場合、手元に残る現金はいくらになるでしょうか。
不動産所得の内訳は以下の通りです。注)他の費用は0という前提です
不動産収入 減価償却費 不動産所得
200万円 -400万円 = ▲200万円
そして、残った現金は
合計所得 800万円 (給与所得1,000万円-不動産所得▲200万円)
税 金 ▲120万円
差 引 680万円
減価償却費 200万円
借入金返済▲400万円
現金残高 480万円
注)計算を簡素化するため土地の取得価額は一切考慮していません。
となります。つまり、収入が給料だけの場合に比べて、現金は344万円も減ったことになってしまいます。
■減価償却でお金は出ていかなくても借入れの返済でお金は出ていく
減価償却費は現金が出ていかない費用
というのは、経理上、減価償却費という費用を計上する時の話であって、当たり前の話ですが、借入金を返せばお金は確実に出ていきます。大事なのは現金の手残りです。手取り額を計算する際は借入金をいくら返したかまできっちりと計算する必要があります。
また
減価償却費があるから不動産所得は赤字になる
というのも、正確には
赤字になることもある
と言い直すべきです。中古の物件で耐用年数が極端に短い場合は、年間の償却費がかくだんに増えますから、赤字になる可能性もかくだんに増えます。しかし、新築の場合はどうでしょうか。新築のマンションの耐用年数は47年です。マンションの建物部分の価格が3,000万円だとすると、償却費は年間
3,000万円÷47年=約64万円
です。一方、家賃は利回り4%でも年間120万円です。償却費以外の費用が他に色々あっても、たいていは黒字になる可能性が高いのです。減価償却費があるから不動産所得は赤字になるんだという説明が誤りであることは、このことひとつとっても理解できるはずです。
確かに、物件を購入した初年度には仲介手数料や登録免許税、抵当権設定費用、不動産取得税といった様々な初期費用がかかります。相場は中古で物件価格の8%、新築で5%程度かかりますから、1年目は減価償却費とあわせて赤字になることはよくあります。
つまり、不動産投資で節税ができるのは、せいぜい物件を購入した初年度ぐらいで、それも、減価償却費の計上というよりも、仲介手数料や登録免許税といった、実際にお金が出ていく経費の支払いがあるからです。
その後も赤字が継続するとしたら何かよけいな費用がかかりすぎているか、空室が埋まらないか、いずれにしろ事業としてうまくいっていないことの証明でしかありません。
決して、今まで給与からゴッソリ取られていた税金が、不動産投資を始めた後はずっと少なくなって楽になるーというわけではありません。
その点はくれぐれもご注意を。
「不動産投資で節税」についてもっと詳しくお聞きになりたいと思われたら
「生涯」税金コンサルタント
さかもと税理士事務所 税理士・坂本千足
にお問い合わせください。
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