節税と人間ドックの費用~35万円は高いか安いか?
2025年07月06日節税ブログ その133
●節税と人間ドックの費用~35万円は高いか安いか?
■健康診断費用と人間ドックにかかる費用
会社の経費にできるかどうか、判断に悩むことが多い人間ドックの費用について、過去に国税不服審判所で争われた事例があります。この事例は、役員が受ける人間ドックの費用を会社が負担した場合に税務上どのように扱われるのかを考える上で参考になると思い、今日取り上げることとしました。
事業を継続するうえで、経営者や従業員の健康管理は大変重要で、多くの会社で健康診断を実施していますね。一般的な健康診断は、法律で定期的な実施が義務付けられていますが、1人当たりの費用は通常1万円から2万円程度が相場とされています。
一方、人間ドックは健康診断に比べ、検査内容がより細かく、費用も高額になりやすく、相場としては、一般的な人間ドックでも数万円から、項目が多くなると数十万円かかることも珍しくありません。
健康診断の費用は「福利厚生費」として通常、会社の経費に計上できますが、人間ドックの費用も同じ様に経費にできるかというと
ン~~~
というわけで、早速、過去の国税不服審判所の裁決例(平成28年9月20日、)を見てみたいと思います。
■裁決例の内容
【会社の実態】
・会社の役員のみが人間ドックを受診
・人間ドックの費用は、役員1人あたり約35万円
・従業員は通常の健康診断のみを受診(費用は1人あたり約1万8千円)
【会社側の主張】
・人間ドックは生活習慣病の予防を目的としたもので、社会通念上一般的であるから会社の費用に認められるべきだ
・人間ドックの受診は役員にとって経済的利益には当たらない
・受診内容は一般的な人間ドックと大きく変わらない
・役員の健康管理は、従業員以上に会社経営への影響が大きく、合理性がある
【税務当局の主張】
・役員の人間ドックの費用と、従業員の健康診断費用の間に大きな金額差がある
・高額な人間ドックの無償提供は、役員個人が経済的利益を得たことにあたる
・経営上のリスクと税務上の賞与にあたるかどうかの判断は別問題である
【国税不服審判所が下した結論】
審判所は税務当局の主張を支持し、人間ドックの費用は「役員賞与」として取り扱われるべきで、会社経費には当たらないと判断した。
裁決では特に「公平性」がポイントとされ、福利厚生費として認められるためには、役員と従業員の間で明らかな待遇差がないことが求められると整理されたわけです。
■役員と従業員の格差~合理的な範囲とは何か?
実際、福利厚生費として認められるためには「全員参加」や「全員共通」であることが大前提とされます。たとえ、役員と従業員で内容や金額にある程度差があることは認められる場合でも、その差が合理的な範囲を超えてしまえば、税務上は「役員個人への経済的利益」と判断されやすくなります。
問題は、ではその「合理的な範囲」とは何なのかということだろうと思います。
たとえば、出張旅費の日当は役員と従業員で一定の差を設けることは通常行われますし、税務も認めています。では、人間ドックの費用はどうなのかということです。
人間ドックの費用は日帰りコースで3万円から7万円、1泊2日コースで4万円から10万円前後。これに脳ドックを組み合わせた場合でプラス2万円から8万円、女性が子宮頸がん検診等を受けた場合でプラス1万円から4万円というのが相場のようです。
と考えると、裁決例にある35万円というのは確かに高いという印象は受けます。しかし、これも具体的に社長がもともとどういう体の状態であったのか、また、どういう医療機関で、どういう医療サービスを受けたのか―といったことを考慮しなければ、一概に高いとか、安いとかの判断はできないのではないかと思います。
■常にみんな一緒でなければならないのか?
また、役員が人間ドックで検査を受けるなら、従業員も同じように受けなければならないーということもないはずです。
一般的には役員の方が年齢も高く、幅広い検査を受ける必要もあるでしょうし、いざという時の経営責任の度合いも当然、異なりますから、リスク回避という意味でも役員の健康チェックによけいに時間とお金をかけるということはあってしかるべきと思います。
数々の講演や著作で有名な税理士の見田村元宣先生がご自身のメルマガで
「自分が立ち会った税務調査の事例では、納税者が上記の会社側と同様の主張をして経費として認めてもらった事例もあった」
と書かれています。
しかし、同時に
「同じことが次も可能かどうかはまったく言えません」
とも書かれています。
■どこまで経費として押し通すべきか
現実的に考えると、人間ドックの費用は多くても数十万円にとどまる場合がほとんどですから、そのために税務調査で争うコストや時間をどこまでかけるべきかーという判断は別にあると思います。
税務の判断は法律に基づいて、マルかバツかどちらかに明確に分けられるものばかりではありません。実際にはそのマルとバツの間にいくつものグレーゾーンがあって、そのグレーゾーンでの判断は、金額の多寡や会社の利益その他の状況、また、税務署の調査官の知識や性格によっても変わります。
いずれにしても、人間ドックの費用を会社の経費として計上したいと考える場合は、役員と従業員のバランス、費用相場、役員の健康状態等をあらかじめよく検討しておくことが必要であると考えます。
人間ドックの費用はどこまでだったら認められるか?・・・とお悩みでしたら
「生涯」税金コンサルタント
さかもと税理士事務所 税理士・坂本千足
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