節税と役員報酬「最適化」~その3 売上高1億の会社で役員報酬はいくら出せる? 7つのケース別 算定方法

節税と役員報酬「最適化」~その3 売上高1億の会社で役員報酬はいくら出せる? 7つのケース別 算定方法

年間売上1億円、税前利益4千万円会社の役員報酬は決め方 考え方

役員報酬をいくらに設定するかは、社長個人の手取りだけでなく、会社に残る現金にも直結する重要な意思決定です。しかし「税金だけ」「社会保険料だけ」を見て決めてしまうと、かえって個人と会社を合わせたトータルの現金が減ってしまうことも珍しくありません。

この記事の内容はすべて、自己開発のExcelシミュレーションシートに基づいて作成しています
使ったのは、独自に開発した【一発回答!】役員報酬「最適化」改定シミュレーションです。これを使えば会社の売上高や経費などの数字と希望する役員報酬、社宅家賃、旅費日当などを入力するだけで、後は自動で税金と社会保険料が計算され、個人の現金残高と法人の現金残高がすぐに示されます。
「自分の会社の場合はどうなるのか知りたい」という社長は、ぜひこの記事を最後までお読みください。 さらに、詳しい内容を知りたい場合は、すぐ下に「『社長の給与』でしっかりお金を残す12の方法」もご用意しています。
これらを見ていただいた後は、ぜひ当事務所にお問い合わせください。社長に最適の役員報酬をシミュレーションいたします!

さて、今回は、年間売上1億円・役員報酬以外の経費6,000万円(=役員報酬を支払う前の利益4,000万円)という前提のもとで、役員報酬の金額や所得分散・支給方法の組み替え・共済制度・社宅家賃・旅費日当・生命保険の活用方法を変えた7つのケースをシミュレーションし、「個人の現金残高」「法人の現金残高」「その合計」がどう変化するかを比較していきます。

本シミュレーションで比較する3つの数字
① 個人の現金残高……役員報酬から税金・社会保険料等を差し引いた、社長の手取りの金額
② 法人の現金残高……税引き後利益として会社に残る現金
③会社と社長個人を一体として見た場合の、トータルの現金残高

いずれのケースも、「会社の年間売上1億円」「役員報酬以外の経費6,000万円」「役員報酬を支払う前の利益4,000万円」という条件は共通です。この4,000万円の使い道(=役員報酬・社会保険料・所得分散・共済掛金・社宅家賃・旅費日当・生命保険にどう配分するか)によって、残る現金の姿がどれだけ変わるかをみなさんと一緒に見ていきたいと思います。

ケース1:役員報酬をゼロにした場合――「出せる上限額」を確認する

最初のケースは、役員報酬をあえて0円とした場合です。これは実際に報酬を0にするという意味ではなく、「役員報酬と役員の社会保険料の負担をゼロと仮定した場合、会社の利益(4,000万円)の中から社会保険料の会社負担分を考慮してもなお役員報酬として出せる金額の上限はいくらか」を確認するために行います。

会社負担分の社会保険料をおおむね報酬の15%と見立てて逆算すると、次のようになります。

ただし、この5,217,391円という社会保険料は「報酬額の15%」という単純な見立てによる理論値です。実際の健康保険・厚生年金保険には、それぞれ標準報酬月額・標準賞与額の上限が定められているため、報酬が一定額を超えると社会保険料の負担率は頭打ちになり、実際にはここまで社会保険料の金額が高くなることはありません。この点は、次のケース以降の社会保険料の実際の金額を見ていただくとよくわかります。

役員報酬(月額)0円
個人の現金残高0円
法人の現金残高26,124,200円
個人・法人合計現金残高26,124,200

役員報酬をゼロにすれば、会社に残る現金(法人税等を支払った後の利益)は最大化されます。しかし当然ながら、社長個人の収入は0です。実務上、社長が生活費を受け取れない設定は成り立ちません。ケース1はあくまで「理論上の上限」と「税額計算の基準点」として押さえ、以降のケースと比較するための出発点として位置づけてください。

ケース2:月額315万円の役員報酬を支給した場合

ケース1で確認した上限額(月額2,898,551円)を参考に、月額3,150,000円(年額37,800,000円)の役員報酬を支給したケースです。役員報酬を社長お一人に集中させた、最もシンプルな設計といえます。

役員報酬(月額)3,150,000円
役員の社会保険料(年額)1,691,982円
個人の現金残高21,825,018円
法人の現金残高322,318円
個人・法人合計現金残高22,147,336

役員報酬を支払うことで会社の利益は大きく圧縮され、法人税等の負担(185,700円)はケース1より大幅に抑えられました。社会保険料は1,691,982円で、ケース1で試算した理論値(5,217,391円)よりもずっと少なくなっています。これは、社長の月額報酬(315万円)がすでに社会保険料の標準報酬月額の上限に達しており、それ以上は報酬が増えても社会保険料は比例して増えないためです。以降のケース3~7は、この「月315万円」という役員報酬の水準を土台として、支給の仕方や所得分散、各種制度の活用方法によって、現金の残り方がどう変わるかを見ていきます。

ケース3:役員報酬総額を変えずに、配偶者へ分散した場合

ケース2の役員報酬総額(月額合計315万円)は変えずに、社長305万円・配偶者10万円に分散したケースです。

役員報酬(社長・月額)3,050,000円
役員報酬(配偶者・月額)100,000円
役員報酬・年額合計   ケース2と同額37,800,000円
役員の社会保険料(年額)ケース2と同額1,691,982円
個人の現金残高22,425,018円
法人の現金残高     ケース2と同額322,318円
個人・法人合計現金残高22,747,336

法人側の数字(社会保険料・法人税等・法人の現金残高)はケース2とまったく同じです。社長の報酬額(305万円)は依然として社会保険料の上限に達する水準にあり、配偶者への10万円もごく少額のため、社会保険料の負担は変わりません。一方で、配偶者個人にも給与所得控除・基礎控除が新たに使えるようになった分、世帯全体で見た税負担が軽くなり、個人の現金残高は21,825,018円から22,425,018円へ、600,000円増加しました。役員報酬の総額を増やさなくても、支給先を分けるだけで手取りを増やせる好例といえます。

ケース4:役員報酬の支給方法を組み替え、配偶者への支給も増やした場合

役員報酬の支給方法を見直したケースです。社長の月額給与を50万円に抑え、代わりに「事前確定届出給与」(あらかじめ税務署に届け出た時期と金額に基づき支給される給与)として年額22,800,000円を支給。配偶者の月額給与を75万円に引き上げました。したがって、配偶者にも社会保険料の支払い義務が発生しました。

役員報酬(社長・月額/事前確定届出給与)500,000円/22,800,000円
役員報酬(配偶者・月額)750,000円
役員報酬・年額合計  ケース2・3と同額37,800,000円
役員の社会保険料(年額)2,615,765円
個人の現金残高24,113,836円
法人の現金残高▲486,765円
個人・法人合計現金残高23,627,071
ここで注目したいポイント
役員報酬の年額合計はケース2・3と変わらないにもかかわらず、社会保険料は1,691,982円から2,615,765円へ、923,783円も増加しました。
社長の月額給与を50万円まで下げたことで、これまで上限に張り付いていた社会保険料の計算基礎(標準報酬月額)が下がった一方、配偶者の月額給与を75万円まで引き上げたことで、配偶者自身の社会保険料負担が新たに発生したためです。
それでも個人の現金残高は22,425,018円から24,113,836円へ増加しました。事前確定届出給与という賞与形式の支給には、社会保険料の計算上、月額給与とは別枠の上限(標準賞与額の上限)が設けられているため、22,800,000円という大きな金額を賞与扱いで支給しても、その部分に課される社会保険料は限定的だからです。
奥さんに一定額以上の給与を出すと、奥さん自身に社会保険料の支払い義務が発生するから奥さんにはあまり給与を出すべきではない―というのは一面の真実ではありますが、このケースの様に結果的に個人(社長+奥さん)の現金残高を増やすこともあり得るのです。その点はあまり固定的に考えず、一度、検討をしてみてはいかがでしょうか。  

ケース5:配偶者への報酬を抑え、中退共・倒産防止共済を活用した場合

ケース4の社長の役員報酬(月額給与50万円+事前確定届出給与2,280万円)はそのままに、配偶者の月額給与を75万円から40万円に引き下げ、代わりに法人で次の2つの制度を活用したケースです。

役員報酬(社長・月額/事前確定届出給与)500,000円/22,800,000円
役員報酬(配偶者・月額)400,000円
役員報酬・年額合計33,600,000円
役員の社会保険料(年額)2,112,953円
中退共・倒産防止共済(年額)(簿外積立)6,000,000円
個人の現金残高21,302,398円
法人の現金残高▲1,783,953円
個人・法人合計現金残高19,518,445

配偶者への報酬を月額35万円引き下げたことで社会保険料は2,615,765円から2,112,953円へ減少しましたが、代わりに中退共・倒産防止共済の掛金600万円が法人の経費として計上されるため、表面上の個人・法人合計の現金残高はケース4(23,627,071円)から19,518,445円へ、大きく下がりました。しかし、この600万円は消えてなくなったわけではありません。実質的には社外に積み立てられている資産です。この点は次のケース7で改めて詳しく見ていきます。

ケース6:家賃・生命保険を社長個人が自己負担した場合

ケース5の役員報酬・中退共・倒産防止共済の設定はそのままに、社長が個人で負担している家賃(年額180万円)と生命保険料(年額24万円)を新たに加味したケースです。社宅などの制度は使わず、いずれも全額が社長個人の自己負担となります。

役員報酬・中退共・倒産防止共済の設定ケース5と同じ
家賃/社長個人負担(年額)   全額自己負担1,800,000円
生命保険/社長個人負担(年額) 全額自己負担240,000円
個人の現金残高19,262,398円
法人の現金残高(ケース5と同額)▲1,783,953円
個人・法人合計現金残高17,478,445

法人側の数字はケース5とまったく同じです(役員報酬や共済掛金といった会社の損益に影響する項目を変えていないため)一方、ケース6では社長の自宅家賃180万円と生命保険料24万円、合計年間204万円の自己負担分を考慮するため、個人の現金残高は21,302,398円から19,262,398円へ、2,040,000円減少しました。次のケース7では、この204万円の自己負担を会社の制度でどこまで圧縮できるかを見ていきます。

ケース7:家賃を社宅化し、生命保険も法人契約に、旅費日当も活用した場合

ケース6と同じ役員報酬・中退共・倒産防止共済の設定のまま、家賃と生命保険の負担方法を見直し、さらに旅費日当を追加したケースです。

  • 社宅家賃……社長が個人で借りている賃貸マンションを会社契約の社宅に切り替え。家賃のうち会社が1,620,000円(90%)を負担し、社長個人の負担は180,000円(10%)まで軽減
  • 生命保険……個人契約から法人契約に変更。会社が240,000円を負担し、社長個人の負担はゼロに
  • 旅費日当……年間480,000円を旅費日当として支給する(一定の要件のもとで所得税が非課税)
社宅家賃/会社負担(年額)1,620,000円
家賃/社長個人負担(年額)180,000円
生命保険/会社負担(年額)240,000円
旅費日当(無税受取・年額)480,000円
個人の現金残高21,602,398円
法人の現金残高(表面)▲2,423,953円
個人・法人合計現金残高(表面)19,178,445

社長個人の家賃・生命保険の自己負担は、ケース6の204万円から180,000円まで大きく圧縮され、さらに旅費日当480,000円も無税で受け取れるようになりました。この結果、個人・法人のトータルの現金残高は17,478,445円から19,178,445円へ、1,740,000も円増加しています。

中退共・倒産防止共済の「簿外積立」を含めた本当の姿
 法人の現金残高は表面上▲2,423,953円ですが、ケース5でご説明したとおり、中退共・倒産防止共済の掛金は経費でありながら実質的に社外へ積み立てられている資産です。
 この積立分(3,480,000円)を法人の現金残高に加算すると、法人の現金残高は1,056,048円のプラスに転じます。
 個人・法人合計の現金残高も、表面上の19,178,445円から、簿外積立を含めた22,658,445円へと大きく引き上がります。決算書の利益や税額だけを見ていると、こうした「経費でありながら資産性のある支出」の効果を見落としがちです。
 ケース1の理論上の上限(26,124,200円)には及ばないものの、役員報酬をゼロにする非現実的な設定と違い、社長・配偶者ともにしっかりとした報酬を受け取りながら、簿外資産も積み上げるという、実務でも無理なく採用できる設計に近づいたといえます。

※中小企業退職金共済は、原則として従業員の退職金制度であり、役員は加入対象になりません。生命保険の法人契約への変更も、保険の種類や契約内容によって損金算入の可否・割合が異なりますので、個別に確認が必要です。

7つのケースの比較まとめ

ここまでのケース1~7の結果を一覧表にまとめると、次のとおりです。なお、表のうち社長及び配偶者の報酬は「月額」で、それ以外の金額はすべて「年額」で表示しています。           【単位:千円】

項目ケース1ケース2ケース3ケース4ケース5ケース6ケース7
社長報酬03,1503,050500500500500
社長賞与22,80022,80022,80022,800
配偶者給与100750400400400
給与年額037,80037,80037,80033,60033,60033,600
中退共3,6003,6003,600
倒産防止2,4002,4002,400
家賃/会社1,620
家賃/個人1,800180
生保/会社240
生保/個人240
旅費日当480
法人税等13,87518518571717171
個人現金021,82522,42524,11321,30219,262,21,602
法人の現金26,124322322▲486▲1,783▲1,783▲2,423
個人+法人26,12422,14722,74723,62719,51817,47819,178

シミュレーションから見えてきたこと

  • ケース1(役員報酬0円)が示す上限額は、あくまで税額計算上の目安です。しかも社会保険料には上限があるため、実際にここまで高額の社会保険料が発生することはありません。
  • ケース2→ケース3のように、役員報酬の総額を変えずに配偶者へ分散するだけで、社会保険料を増やすことなく世帯の手取りを増やせる場合があります。
  • ケース4のように、月額給与の一部を「事前確定届出給与」に組み替えると、社会保険料の負担割合が変わり、個人の手取りが増える一方で法人の現金残高が圧迫されることもあります。支給方法の組み替えは、法人側への影響もあわせて確認する必要があります。
  • ケース5の中退共・倒産防止共済は、表面上は法人の現金残高を圧迫しますが、実質的には社外に資産が積み上がることになります。「経費だから損」ではなく、資産性のある支出として評価する視点が欠かせません。
  • ケース6→ケース7の比較から分かるとおり、社宅・法人契約の生命保険・旅費日当といった非課税・現物給与の活用は、社長個人の自己負担を大きく圧縮する効果があります。
  • ケース7のように、簿外積立まで含めて評価すると、表面上の数字だけでは見えない「本当の資金余力」が見えてきます。
まとめ:役員報酬の「最適化」は一つの手段では完結しない
 役員報酬の金額そのものだけでなく、
①配偶者等への所得分散
②事前確定届出給与など支給方法の組み替え
③中退共・倒産防止共済といった簿外資産の形成
④社宅・生命保険の法人契約・旅費日当といった非課税・現物給与の活用
 これらを組み合わせて初めて、個人と会社を合わせたトータルの現金残高を無理なく積み上げることができます。
 自社の利益水準に対してどのバランスが最適かは、今回のようなシミュレーションで事前に「見える化」したうえで判断することをおすすめします。

会社の数字を入力するだけ――結果はほんの10分程度で

今回ご紹介した7つのケースの試算は、すべて当事務所が独自に開発したExcelシミュレーションシートで作成したものです。手計算では、役員報酬の金額を1パターン変えるだけでも、社会保険料の等級表の当てはめ、所得税・住民税の計算、法人税等の税率区分の判定など、何十項目もの計算をやり直す必要があります。

しかしこのシートでは、売上高や役員報酬以外の経費といった会社の損益の数字、役員報酬の金額、社宅家賃や旅費日当の有無を入力欄に打ち込むだけで、社会保険料・所得税・住民税・法人税等をすべて自動計算し、「個人の現金残高」「法人の現金残高」「その合計」までをほんの10分程度で何パターンでも比較できます。今回のように役員報酬・社宅家賃・旅費日当・所得分散・経費見直しを組み合わせて試算し、自社にとって最も現金の残る組み合わせを探す、といった使い方が可能です。

「うちの会社だとどうなるのか」「決算までに翌期の役員報酬の見直しを検討したい」という方は、当事務所にお気軽にご相談ください。実際の数字をお預かりし、お客様のご意見も聞きながらその場で複数のパターンをお示しします。

※さらに、詳しい内容を知りたい方は、すぐ下の「『社長の給与』でしっかりお金を残す12の方法」もダウンロードください。