節税と役員報酬「最適化」~その1 売上高1千万の会社で役員報酬はいくら出せる? 6つのケース別 算定方法

節税と役員報酬「最適化」~その1 売上高1千万の会社で役員報酬はいくら出せる? 6つのケース別 算定方法

スタートして間もないこれからの企業の役員報酬の決め方・考え方

役員報酬をいくらに設定するかは、社長個人の手取り額だけではなく、会社に残る現金にも直結する重要な意思決定を必要とします。しかも「税金だけ」「社会保険料だけ」を見て決めてしまうと、かえって個人と会社を合わせたトータルの現金が減ってしまうことにもなりかねません。

この記事の内容はすべて、自己開発のExcelシミュレーションシートに基づいて作成しています
 使ったのは、独自に開発した【一発回答!】役員報酬「最適化」改定シミュレーションです。これを使えば会社の売上高や経費などの数字と希望する役員報酬、社宅家賃、旅費日当などを入力するだけで、後は自動で税金と社会保険料が計算され、個人の現金残高法人の現金残高がすぐに示されます。
「自分の会社の場合はどうなるのか知りたい」という社長は、ぜひこの記事を最後までお読みください。
 さらに、詳しい内容を知りたい場合は、すぐ下に「『社長の給与』でしっかりお金を残す12の方法」もご用意しています。これらを見ていただいた後は、ぜひ当事務所にお問い合わせください。
 社長に最適の役員報酬をシミュレーションいたします!

さて今回は初回ということで、スタートしてまだ間もない会社を取り上げました。

年間売上1,000万円、役員報酬以外の経費700万円、役員報酬を支払う前の税引き前利益300万円という前提で、役員報酬の金額や社宅家賃・旅費日当の金額を様々変えた6つのケースをシミュレーションし、「個人の現金残高」「法人の現金残高」がどう変化するかを比較していきます。

本シミュレーションで最終的に比較する3つの数字
① 個人の現金残高……役員報酬から税金・社会保険料等を差し引いた、社長の手取りの金額
② 法人の現金残高……税引き後利益として会社に残る現金
③ 会社と社長個人を一体として見た場合のトータルの現金残高

いずれのケースも、「会社の年間売上1,000万円」「役員報酬以外の経費700万円」「役員報酬を支払う前の利益300万円」という基本的な条件は同じです。そして売上から経費を差し引いた300万円をどう使うかによって残る現金がどれだけ変わるかをみなさんと一緒に見ていきたいと思います。

ケース1:役員報酬をゼロにした場合――「出せる上限額」を確認する

最初のケースは、役員報酬をあえて0円とした場合です。これは実際に報酬を0にするという意味ではなく、「役員報酬と役員の社会保険料の負担をゼロと仮定した場合、会社の利益(300万円)の中から社会保険料の会社負担分を考慮してもなお役員報酬として出せる金額の上限はいくらか」を確認するために行います。

会社負担分の社会保険料をおおむね報酬の15%と見立てて逆算すると、次のようになります。

つまり、この会社の状況では、社会保険料の会社負担分を織り込んでも月額217,391円までは役員報酬として出す余地がある、という「天井」が見えてきます。

なお、ケース1・ケース2では借上げ社宅の仕組みを使わないため、社長は月8万円(年間96万円)の賃貸マンションの家賃を全額、個人で負担することとなります。

役員報酬(月額)0円
家賃/社長個人負担(年額)全額自己負担960,000円
個人の現金残高▲960,000円
法人の現金残高2,250,200円
個人・法人合計1,290,200

役員報酬をゼロにすれば、会社に残る現金(法人税等を支払った後の利益)は最大化されます。しかし社長個人は収入(役員報酬)が一切なく、そこへ家賃96万円の支出が発生するため、現金残高は▲960,000円となります。もちろん、実際には社長が生活費を受け取らず、家賃分が持ち出しになる設定は成り立ちません。

ケース1はあくまで「理論上の上限」と「税額計算の基準点」として押さえ、以降のケースと比較するための出発点として位置づけてください。

ケース2:月額20万円の役員報酬を支給した場合

ケース1で確認した上限額(月額217,391円)を参考に、月額20万円(年額240万円)の役員報酬を支給したケースです。社宅や旅費日当といった仕組みは使わず、給与だけで生活費を賄う、最もシンプルな設計です。

ケース1と同じく、社長個人で借りている賃貸マンションの家賃96万円は全額自己負担のままです。

役員報酬(月額)200,000円
役員の社会保険料(年額)360,360円
家賃/社長個人負担(年額) 全額自己負担960,000円
個人の現金残高1,049,840円
法人の現金残高114,740円
         個人・法人合計1,164,580

役員報酬を支払うことで会社の利益は圧縮され、法人税の負担(124,900円)はケース1よりおさえられます。一方、社長個人は役員報酬から社会保険料・所得税等を差し引き、さらに家賃96万円を自己負担した後の手取りとして1,049,840円が残ります。個人・法人合計は1,164,580円で、実はケース1(1,290,200円)をわずかに下回る結果となりました。

「給与は受け取って、家賃は自分で払う」というシンプルな設計が、必ずしも最も効率的とは限らないことがここから見えてきます。以降のケース3~6は、この「月20万円・家賃自己負担」を土台として、借上げ社宅や旅費日当、所得分散、経費見直しといった工夫を加えた場合にどう変わるかを見ていきます。

ケース3:社宅家賃と旅費日当を組み合わせた場合

ケース2の役員報酬(月20万円)はそのままに、次の2つの仕組みを追加したケースです。

役員報酬(月額)200,000円
社宅家賃/会社負担(年額)864,000円
社宅家賃/社長個人負担(年額)96,000円
旅費日当(無税受取・年額)360,000円
個人の現金残高2,273,840円
法人の現金残高▲1,055,360円
        個人・法人合計1,218,480

社長個人の現金残高は、ケース2の1,049,840円から2,273,840円へ1,224,000円も増加しました。個人の家賃負担が年間96万円から96,000円へ大きく軽減され、さらに旅費日当360,000円を無税で受け取れることの効果です。

ここで注目したいポイント
 個人の手取りは大きく増えたにもかかわらず、法人の現金残高は114,740円の黒字から▲1,055,360円の赤字へ転落し、個人・法人の合計は1,218,480円と、ケース2(1,164,580円)をわずかに上回る程度にとどまりました。
 理由は単純で、社宅家賃と旅費日当を合わせた会社の追加負担(864,000円+360,000円=1,224,000円)が、役員報酬を支払った後に残るわずかな利益では吸収しきれず、会社が赤字になってしまったためです。
 赤字になると法人税は最低ライン(均等割)まで下がりますが、それ以上は税負担が減らないため、投じた1,224,000円に見合う節税効果が得られません。
 つまり社宅家賃や旅費日当は「無税だから常にお得」というわけではなく、それを支える会社の利益(体力)があってはじめて効果を発揮する仕組みだということが分かります。
個人の手取りだけを見て判断すると、会社側の資金繰りを圧迫しかねません。

ケース4:社宅・旅費日当を活かしつつ役員報酬を大きく圧縮した場合

ケース3では、社長個人の家賃負担が軽減され、旅費日当も無税で受け取れるようになった分、実は月20万円もの役員報酬を維持する必要はありません。そこでケース4では、社宅・旅費日当の仕組みはケース3のまま活かしつつ、役員報酬を月額80,000円まで大きく圧縮してシミュレーションを行いました。

役員報酬(月額) ケース2と3より12万円圧縮80,000円
社宅家賃/会社負担(年額)864,000円
旅費日当(無税受取・年額)360,000円
役員の社会保険料(年額)ケース2と3:360,360円151,520円
個人の現金残高 ケース2とほぼ同水準1,072,480円
法人の現金残高443,580円
        個人・法人合計1,516,059
ケース4で起きていること
 役員報酬を月20万円から8万円へ大きく下げたことで、役員報酬に連動する社会保険料も151,520円(ケース2・3の360,360円より208,840円減)へ圧縮されました。
 その結果、社長個人の手取り(1,072,480円)は、家賃を全額自己負担していたケース2(1,049,840円)とほぼ同水準を維持しながら、会社の経費負担(社宅・旅費日当)を吸収してもなお利益が残るようになり、法人の現金残高は▲1,055,360円の赤字(ケース3)から443,580円の黒字へ転換しました。
 個人・法人合計は1,516,059円となり、ケース1〜3のいずれをも上回る結果です。
 「現金の役員報酬」を必要最小限に抑え、その分を社宅・旅費日当という非課税・現物の形で還元することで、個人の生活水準を落とさずに会社の資金繰りを大きく改善できることが分かります。

ケース5:役員報酬を社長と配偶者に分散し、社宅・旅費日当も活用した場合

ケース2・3で示した月額20万円の役員報酬を、社長ひとりではなく、社長12万円と配偶者8万円に分散したうえで、ケース3と同じく社宅家賃・旅費日当も活用したケースです。

役員報酬(社長・月額)120,000円
役員報酬(配偶者・月額)80,000円
役員報酬・年額合計 ケース2・3と同額2,400,000円
社宅家賃/会社負担(年額)864,000円
旅費日当(無税受取・年額)360,000円
役員の社会保険料・年額合計 ケース3:360,360円212,612円
個人の現金残高2,451,388円
法人の現金残高▲907,612円
         個人・法人合計1,543,775
所得分散のインパクト
 役員報酬の年額合計はケース3と同じ240万円のままですが、ふたりに分けたことで社会保険料が147,748円(360,360円→212,612円)少なくなり、その分だけ会社の経費負担が軽くなりました。
 その結果、個人の現金残高は2,451,388円とケース3(2,273,840円)よりさらに177,548円増加し、法人の現金残高も▲907,612円とケース3(▲1,055,360円)より147,748円改善しています。
 個人・法人合計は1,543,775円となり、ケース4(1,516,059円)をわずかに上回りましたが、役員報酬の年額合計そのものが240万円と大きいため、会社は依然として赤字(▲907,612円)です。
 所得分散は効果的な手法ですが、それだけで会社の資金繰りの問題を解決できるわけではないことも分かります。

なお所得分散は、配偶者に実態を伴う職務や関与があることが前提です。名目だけの分散は税務上の否認のリスクがありますから、実際の業務内容や勤務実態を踏まえたうえで検討する必要があります。

ケース6:所得分散に加え、経費を年間85万円見直した場合

最後に、役員報酬の設計はケース5(所得分散+社宅家賃+旅費日当)のまま据え置き、役員報酬以外の経費を年間85万円見直して削減できた場合を試算しました。

役員報酬(社長・月額/配偶者・月額)120,000円/80,000円
社宅・旅費日当の設定ケース5と同じ
役員報酬以外の経費  700万円より85万円減額700万円 → 615万円
個人の現金残高2,451,388円
法人の現金残高    ケース5は▲907,612円▲60,412円
        個人・法人合計2,390,975円

経費の見直しは社長個人の手取りにはまったく影響を与えず、削減できた85万円がそのまま法人の現金残高の改善(▲907,612円→▲60,412円)に直結しました。個人・法人合計でも1,543,775円から2,390,975円へと、ほぼ85万円改善しています。

役員報酬や社会保険料の設計は、税金・社会保険料といった制度の仕組みを踏まえた複雑な調整が必要になりますが、経費の見直しはその複雑さを伴わず、削減額がダイレクトに会社の現金に反映される、最もシンプルで即効性のある打ち手だといえます。ケース1〜6の中でも、個人・法人合計の現金残高が最も大きいのがこのケース6であり、「役員報酬の設計」と「経費の見直し」を両輪で進めることの重要性がよく分かる結果となりました。

もちろん、この経費削減85万円はあくまで計算上の話で、実際にはそうそう簡単にできることでないことは論を待ちません。とはいえ、自分の事業にとって、この経費は、これがないと本当に事業が成り立たないのかどうか―という客観的な視点で常に見直すように心がけることは必要ではないでしょうか。

6つのケースの比較まとめ

ここまでのケース1~6の結果を一覧表にまとめると、次のとおりです。なお、表のうち社長及び配偶者の報酬は「月額」で、家賃以下の金額はすべて「年額」で表示しています。

  項目ケース1ケース2ケース3ケース4ケース5ケース6
社長報酬0200,000200,00080,000120,000120,000
配偶者報酬80,00080,000
家賃/会社864,000864,000864,000864,000
家賃/個人960,000960,00096,00096,00096,00096,000
旅費日当360,000360,000360,000360,000
経費見直し▲850,000
個人現金残▲960,0001,049,8402,273,8401,072,4802,451,3882,451,388
法人現金残2,250,200114,740▲1,055,360443,580▲907,612▲60,412
個人+法人1,290,2001,164,5801,218,4801,516,0591,543,7752,390,975

シミュレーションから見えてきたこと

  • ケース1(役員報酬0円)が示す上限額は、あくまで税額計算上の目安です。家賃の自己負担も重なり、社長個人の現金残高はマイナスになります。
  • ケース2(給与のみ・家賃自己負担)は、6つのケースの中で個人・法人合計が最も少ない結果となりました。「役員報酬さえ払えばよい」という発想だけでは、資金効率のよい設計にはなりません。
  • ケース2→ケース3の比較から分かるとおり、社宅家賃や旅費日当は「無税だから常に有利」とは限りません。会社の利益水準に対して負担が大きすぎると、会社が赤字に転落することもあります。
  • ケース4のように、社宅・旅費日当という非課税・現物給与を軸に据え、現金の役員報酬を必要最小限まで絞り込むことで、個人の手取りを維持しながら会社の現金を黒字に転換できます。
  • ケース5の所得分散は、社宅・旅費日当と組み合わせても社会保険料の負担をさらに圧縮できる、費用対効果の高い選択肢です(ただし実態を伴う就労が前提)。
  • ケース6の経費見直しは、制度の複雑さを伴わず、削減額がそのまま会社の現金として残る、地に足のついた改善策です。6つのケースの中で最も個人・法人合計の現金残高が大きくなりました。
まとめ:役員報酬の「最適化」は一つの手段では完結しない
役員報酬の金額そのものだけでなく
①社宅・出張旅費といった非課税・現物給与の活用
②配偶者等への所得分散
③経費そのものの見直し
 この3つを組み合わせて初めて、個人と会社を合わせたトータルの現金残高を無理なく積み上げることができます。
 自社の利益水準に対してどのバランスが最適かは、今回のような簡易シミュレーションで事前に「見える化」したうえで判断することをおすすめします。

会社の数字を入力するだけ――結果はものの10分程度で

今回ご紹介した6つのケースの試算は、すべて当事務所が独自に開発したExcelシミュレーションシートで作成したものです。手計算では、役員報酬の金額を1パターン変えるだけでも、社会保険料の等級表の当てはめ、所得税・住民税の計算、法人税等の税率区分の判定など、何十項目もの計算をやり直す必要があります。

しかしこのシートでは、売上高や役員報酬以外の経費といった会社の損益の数字、役員報酬の金額、社宅家賃や旅費日当の有無を入力欄に打ち込むだけで、社会保険料・所得税・住民税・法人税等をすべて自動計算し、「個人の現金残高」「法人の現金残高」「その合計」までをほんの10分程度で何パターンでも比較できます。今回のように役員報酬・社宅家賃・旅費日当・所得分散・経費見直しを組み合わせて試算し、自社にとって最も現金の残る組み合わせを探す、といった使い方が可能です。

「うちの会社だとどうなるのか」「決算までに翌期の役員報酬の見直しを検討したい」という方は、当事務所にお気軽にご相談ください。実際の数字をお預かりし、お客様のご意見も聞きながらその場で複数のパターンをお示しします。

※さらに、詳しい内容を知りたい方は、すぐ下の「『社長の給与』でしっかりお金を残す12の方法」もダウンロードください。